愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「…ん、すごく美味しい。
やっぱり家庭によって味が変わるんだね」


どうやら瀬野は私の味付けを気に入ってくれたようだ。

私の作るカレーの味はお母さんから受け継がれたものだ。


レシピなんてなかったけれど、頑張って再現しようと思ったのである。


「懐かしいな」

なんて言って、ふっと微笑んだ瀬野。
その笑顔がどこか切なげに思えた。


ただじっとその言葉に反応しないでいたら、また瀬野が口を開いた。


「カレーが唯一の料理だった」
「えっ…?」

「母親の」


ドクンと心臓が大きな音を立てたのがわかった。
瀬野から自分の過去に触れてきたのだ。


「……そうなんだ」

あくまで冷静に。
深い質問はせず、ただただ相手の話を聞くだけにする。


「いつもコンビニの弁当ばかりだったんだけど、ある日家に帰ってきたらカレーが作り置きされてたんだ。

それを食べたら普通に美味しくて、たまにはいいなーって思ってたんだけど、そしたら次の日からカレー地獄。だんだん作り置きの量も増えて、毎日カレー三昧だよ」


瀬野は苦笑していた。

カレーの話もそうだけれど、コンビニ弁当ばかりというのも引っかかる。