愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「じゃあ瀬野は野菜の皮むき担当ね。
それなら怪我もしないでしょ」

「あっ、ちゃんと気遣ってくれてる。優しい」
「怪我して食材が汚染されたら困るからね」

「……ツンデレだ」
「うるさい」


誰がツンデレだ。
ただ瀬野に対しては厳しいだけの人間である。


「嬉しいなぁ、川上さんに心配されて」
「やっぱりひとりで作る」

「じゃあ俺は人参の皮からむきます」
「あーもう、わかったから早くやって!」


一度やると決めたことは絶対に折れない瀬野。
つまり私は諦めるしかないのである。

今回も諦めて瀬野に任せることにした。


最初こそ心配だったカレー作りだったが、案外スムーズに調理を進めることができた。

カレーだけでなく、付け合わせのサラダも作ってテーブルに並べる。


「カレーって意外と時間かかるんだね」

テーブルを挟んで、お互い向かい合って座る。
座った後の瀬野の第一声がそれだった。


「まあ煮込む時間があるからね。
その間に違うことやればいい話だし」

「うん…なんか、久しぶりだな」
「瀬野?」


瀬野は一度笑ったかと思うと、ようやくカレーを一口食べた。

辛すぎないかと心配で、つい瀬野の表情を目で追ってしまう。