愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜







スーパーに寄って必要な材料を調達した後、家へと帰る。

どうしてか、ふたりの間には気まずい沈黙が流れていた。


どうしても、最後の翼くんと瀬野のやりとりが頭から離れない。


「瀬野」
「…どうしたの?」

「疲れてるなら別に私、ひとりで作るから休んでて」


私なりの気遣いだったけれど。
瀬野はそれを受け入れずに拒否した。


「嫌だよ、一緒に作るの楽しみにしてたのに」
「でもなんか元気ないじゃん」

「少し考え事してただけだよ。
もう切り替えたから」


考え事とは、翼くんとのやり取りに関連することだろうか。


「ボーッとして怪我とかしないでよね」

「もちろん大丈夫だよ。あっ、でも怪我したら川上さんが手当て…」

「私って優しいから消毒液と絆創膏を渡してあげる。処置ぐらい自分でしろ」

「えーっ、ひどいなぁ」


クスクスといつもの調子で笑う瀬野。
多分、きっと大丈夫。

気づけばそのように思い込む自分がいた。


踏み込みたくなる気持ちを抑えて。
所詮私たちは浅い関係なのだ。