思わず手をついたけれど、目の前には整った瀬野の顔があった。
油断すればキスもできそうなその距離に、耐性のない私は固まってしまう。
「…………」
瀬野は何も喋らない。
私も口を閉じたまま。
明かりのついたこの部屋で、なんとも言えない空気が流れる。
爽やかで、穏やかで、優しい。
手を出すようなイメージのない瀬野だったはずなのに。
どうして目の前の彼が───
危険だと思うのだろう。
少しゾクッとするような無表情。
揺れない真っ黒な瞳が私を捉えている。
こんなにも危険で怖いとも思えるような瀬野の表情を私は初めて見た。
なんなの、こいつ。
実は何にでも化けられる人間なの───?



