「もう早く帰ろう川上さん。
早くふたりきりになりたい」
「…スーパーに寄ってよね」
「あ、本当だ。ふたりで作るんだよね今日は」
その言葉で途端に嬉しそうな表情へと変わる瀬野。
本当に心理が読めない男だ。
バイクが停められている定位置に着き、いつも通りヘルメットを渡されたその時───
「……瀬野くん」
思わずビクッと肩が跳ねた。
突然廃工場の方から、声が聞こえてきたからだ。
「翼、どうしたの?」
パッと振り向けば、そこには翼くんが立っていた。
ゲーム機は手にしておらず、瀬野をじっと見つめている。
「その子に話さないの?」
何を話すのか。
私には全く伝わらなかったけれど、瀬野には伝わったようで。
「翼は気にかけなくて大丈夫だよ。
俺の問題だから」
「その子ならきっと受け入れてくれると思う。
だから瀬野くん、その子に…」
「うん、そうだね。
ちゃんと俺もわかってるよ」
作り笑いを浮かべた瀬野は、冷たい声で翼くんを突き放すような言い方をした。
さすがの彼も、少し圧にやられた様子。
「じゃあ俺たちは帰るね。
今日は来てくれてありがとう」
瀬野は私をバイクの後ろに乗せて、走り出す。
最後に翼くんを見た時、彼はなんとも言えない複雑な表情をしていた。



