愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「本当に感謝してるよ。でもごめんね、今は川上さんを独り占めしたい気分なんだ」


瀬野はにっこりと爽やかな笑みを浮かべた後、また私の腕を引いて地上へと目指し、歩き始めてしまう。

なんとも強引な男だ。
独り占めしたいだなんて。


莉乃ちゃんに会って、私はここに置いたくせに。

自分勝手な瀬野に不服ではあるけれど、どうして恨めないのだろう。


「ちょっと、別れの挨拶ぐらいさせてよね」


瀬野があまりにも無理矢理、私を連れ去ろうとするから。

みんなに頭を下げて『今日はありがとう』と言うことしかできなかった。


「ごめんね、あまりにも川上さんが馴染んでいたから」
「そりゃこんな長時間いたらね」

「なんか嫌だなぁ、馴染まないで欲しかった」


不服に思うのは私であるはずなのに、どうして瀬野が不服そうなのだ。

拗ねているようにも見えなくない。


「あんたがここに置いたのが悪いんでしょ」
「うん、そうなんだけどね…」

自分でしたことに不満を覚えているだなんて、本当にバカである。