瀬野は幹部のみんなを信頼している。
けれど───
「…っ」
「どうしたの?愛佳ちゃん」
「あ、いや…なんでもない」
すっかり忘れていた。
ここ【仁蘭】には“裏切り者”がいるということを。
私がここに来たのは敵を油断させるため。
つまりこの部屋の外には、必ず裏切り者がいるのだ。
そうじゃないと瀬野は私をここに連れてこないだろう。
今日は前より集まっている人数が少ない。
つまり“裏切り者”は複数人いる───?
「だからその子に手を出さない方がいいよ」
「そうか…翼が言うならそうなんだな」
やけに翼くんを信用しているふたりは、彼の言葉に対して素直に頷いていた。
「あっ、あのね愛佳ちゃん」
その様子を見て戸惑う私に気づいた光希くんが、すぐに説明してくれた。
「翼くんは涼ちゃんと同じ中学で、互いのことを一番理解してるんだよ」
「翼んくんと瀬野くんが…そうなんだね」
正直、瀬野と翼くんは正反対に見えるけれど。
ふたりの間には深い関係性があるようだ。
「だから翼くんの言うことは間違いないね!」
「だな。嘘でも川上さんに手を出すなってことだ」
果たして本当なのだろうか。
瀬野はただ、自分の思い通りに私を動かしたいだけのような気がする。
それでも今はそんなことを言えない。



