愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




歯を磨いて最後に櫛で髪を梳かした後、部屋に戻ると───


「……瀬野くん?」

良かった、ちゃんとベッドで寝てくれてる。
強引に押した甲斐があった。


瀬野は目を閉じて、すでに眠っている様子。
相当疲れていたのかもしれない。


「……私も、寝よ」

今日のことで、私への好感度も上がったことだろう。
もし何かあれば瀬野は私の味方をしてくれるはずだ。

なんて、またずるい考え。


それにしても───


チラッと瀬野に視線を向ける。
眠った顔も、絵になるほど綺麗でかっこよかった。

思わず見惚れてしまうほどである。


「……変な感じ…」

ひとりの空間であるはずの家に、他人がいることが。
それも相手は男の人だ。


こんな不思議なこともあるのだと思いつつ、もっと近くで彼を見ようとベッドへ足を進めたその時───



「きゃっ…!?」


それは本当に一瞬だった。

強い力で腕を引っ張られ、彼の元へと倒れ込んでしまったのだ。