「ズルイね、口では言わないなんて。
期待させてくれないの?」
「じゃあこのままで良い」
「そんなこと言わないで。
まあ、素直じゃない川上さんもかわいいんだけどね」
ここまできてようやく私の背中に手を回して。
優しく抱きしめられる。
まだしばらくこのままで、なんて思う私はらしくない。
気づけば息苦しさがなくなる。
代わりに鼓動が速まり、瀬野に身を預けた。
「どうしたの、いつもなら怒るのに」
「……悪い?」
「大歓迎だよ。
もっと甘えて欲しいくらい」
ふっと笑って、私の頭を優しく撫でる瀬野。
さっきは手を振り払ったけれど、今は大人しく受け入れる。
時間の流れがやけにゆっくりだ。
「……ん、もう大丈夫」
これ以上時間が経つと離れにくくなると思ったため、そのように言ったけれど。
「ダーメ、まだ離してあげない」
「…っ」
瀬野は決して私を離そうとしない。
さらには意地悪そうな言い方。
「早く行かないと莉乃ちゃんを待たせてるんでしょ」
「莉乃は今、アジトにいるみたいだから少しぐらい遅くなっても大丈夫」
大丈夫って、そのような扱いをしていいのか。
一体ふたりがどんな関係なのかと知りたいけれど聞けない。
プライドというものが邪魔をしているのだ。



