「これは川上さんだから言うけど、まだ部屋はあるよ」
「まだあるの?」
「ひとつは俺しか入れない部屋。もし何かあったら川上さんをそこに連れて行けば絶対に安全だね」
「……今日はそこじゃないんでしょ?」
「もちろん。本当に緊急事態の時だけだよ」
ますます不安になるではないか。
どうせならそこに行かせて欲しい。
「今が緊急事態なんじゃないの?」
「……その部屋に入ったからには、それなりの条件がついてくるよ」
「条件って?」
「一生俺から離れられない、とか」
「じゃあいい」
「即答されても悲しいな」
瀬野の表情を見る限り、決して悲しそうではない。
「嫌に決まってるでしょ、そんな条件。あまり都合の良いこと言ってると、そのこと言いふらすよ」
「……それは黙ってられないなぁ」
「…っ」
決して笑顔を崩さず。
けれど瀬野の声が低くなったのがわかる。
「その部屋は地下通路以外の地上への道と繋がってるから、もしアジトが奇襲に遭った時、みんなの逃げ道になるんだ」
「……逃げるんだ?」
負けじと言い返すけれど。
私が瀬野に勝てたことなどない。



