「お、おい…川上さん大丈夫か?
いきなり何してんだよ」

「……なんでもないです」
「これで何でもないって言われてもな…」


風雅さんはそれ以上何も言わずに、ふと私の頭を優しく撫でてくれた。

大きくてしっかりした手。
けれど手つきは優しい。


一度目を閉じて落ち着かせようとした時。
店内に誰かが入ってきた。


「おっ、涼介。やっと戻ってきたか」
「…っ」

その相手はもちろん瀬野だったようで。
もう少し後に帰ってきて欲しかった。


「……風雅さん」
「どうした?何か緊急事態?」


やけに低い瀬野の声に思わず目を開ける。
電話で何かあったのだろうかと思った瞬間───


「川上さんに馴れ馴れしく触らないでもらっていいですか?」

突然風雅さんの手の重みが頭からなくなる。
かと思いきや、近い位置で瀬野の声が聞こえてきた。


さすがの私も顔を上げれば、瀬野から圧を感じる。
落ち着いているように見えて、静かな怒りが見えた。