「涼介、結構トラウマ抱えてるんだよ。それでも人に頼ろうとしないのが悪い癖だな、弱さを見せるのが嫌みてぇだ」
「……弱さ」
「総長っていうトップに立ってるから、今は余計に言えねぇのかもな。強く在ることが総長だとかなんとか思ってそうだなぁ」
トラウマ、弱さ、強く在ることが総長。
瀬野の家で彼の母親に会った日。
彼は怯えていた、“何か”に恐れていた。
それでも切り替えは早くて、すぐに立ち直って。
ただ弱さを乗り越えたわけではない、瀬野という人間はまだまだ未完成なようだ。
“逃げている”
瀬野はそのように自分で言っていたのだから。
「それでも人間、“小さい頃”に植え付けられた恐怖はそう拭いきれねぇもんだ」
「…暴力ですか」
「察しがいいな、川上さんは。
なかなか鋭いみてぇだな」
否定も肯定もしない。
正確に言えば、少し肯定寄りの言葉である。
瀬野の口から聞いたわけではないけれど、恐らく母親から暴力を振るわれていたのだろう。
そうだとしたら父親は?
父親からも暴力を受けていた?
瀬野の過去に触れても、ますますわからないことが浮上するばかり。
「まあこれ以上は本人に聞いてやってくれ。
俺から言うのも涼介は嫌だろうし」
「……はい」
私は瀬野の過去を知りたい…?
ううん、そんなことはないと自分に言い聞かせる。
深く踏み込んだところで面倒なだけだと。



