愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




こんなにも簡単に私を置いていくだなんて。
風雅さんと一対一で話せということだろうか。

初対面なのにハードルが高すぎる。


「多分もうすぐしたらパスタできると思うから、あとちょっと待っててくれな」


けれど風雅さんは躊躇うことなく私に話しかけてくる。

本当にフレンドリーな人だ。
そういう相手の方が、話すことに対しては楽なのだが。


「あ、はい…すごく楽しみです」

「本気で美味しいからぜひ期待してくれ。
涼介も気に入ってるから」


別に瀬野が気に入ろうが私に関係ないけれど、曖昧に頷いておく。


「それにしても、まさか涼介が本命の女見つけるなんてな…驚きと嬉しさで溢れてる」

「瀬野くんが私を本命なんてそんな…あり得ないです」


どう考えても私の反応を楽しんでいるだけの最低な男だ。

そこに本気なんてものはない。


「いやぁ、あれは本気以外に考えられねぇな。ここに連れてくる時点で心許してる証拠だし…あいつ、相当重い過去抱えてるけど、できれば向き合えるように支えてやってほしい。俺からのお願いだ」

「重い、過去…」


そんなの何も知らない。
瀬野の過去の話なんて。


「は、もしかして聞いてないのか…?」
「えっと、そんな話はしたことないです…」

「まじかよ涼介、心許してるんじゃねぇのかよ」


はぁ、と呆れたようにため息を吐く風雅さん。


瀬野の過去には一度も触れたことがない、というより触れないようにしていた。

正直、心のどこかで気にはなっているけれど、そこまでの関係に至ってないためあえて聞かないでいた。