愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「こう見えて涼介より喧嘩、強かったんだぜ」
「今は俺の方が強い自信しかないですよ」

「そりゃブランクあるからな。何、川上さんの前でかっこつけたいんだ?かわいいやつ」


どうやら“元総長”さんは、瀬野より立場が上らしい。
瀬野が敵わない人間がいるとは。


「別に、川上さんにはもうダサいところをたくさん見られているんで」

「へぇ、そうなんだ。
それでも川上さんは側にいてくれてるってことは…」


普通に脅されてますけど私。
さすがにそこまでは言えず、苦笑いを浮かべておく。


「まさか涼介くんがね、女の子を連れてくるとは。はい、先にこれ生ハムのサラダね」


ちょうどタイミングよく、サラダを運んでくれたのは田中さんで。

穏やかで優しそうな人だ。
この人も何か繋がりがあるのだろうか。


見た感じ、到底考えられないけれど。



「もう俺もびっくりっすよ。最後に来たのが確か11月だから…この1ヶ月の間に何があったんだ?一回も彼女の話を聞いたことがないぞ」


1ヶ月…そうか、私たちの関係ってまだそんなにも浅いのか。

それなのにこの急展開を誰が予想できただろう。


「本当に突然でしたね、きっかけは」


確かにそうだ。

あの日、私ではない誰かがそこを通っていたら、瀬野はその相手に声をかけていたことだろう。