愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「はい、これ飲み物な」

深入りする間も無く、風雅さんが飲み物を持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


頭を下げて飲み物を受け取る。


「実はな川上さん、涼介がここに来る時はひとりなんだ」

「えっ…?」

「最初は俺が来いって言わないと来なかったんだけどな、最近では定期的に来てくれるようになったんだ」


突然始まる瀬野の話。

私は彼のことを知らなさすぎるため、耳を傾けることにした。


「風雅さん。それ、言うんですか」

「だって涼介が連れてきたってことはそう言うことだろ?」

「まあそうですね」


“そう言うこと”?
私だけが理解していないようで、眉をしかめそうになる。


「たまに“仲間”を連れてくることはあるけど、女を連れてきたことはなかったな」

「仲間…」

「おっ、察しがいいな。
実は俺、“元”涼介の位置に立っていた人間なんだ」


わざと濁したのは、場所が場所だからだろう。
なるほど、風雅さんは“元総長”だったようだ。


「そう、なんですね…」

「ああ。それで仲間って言っても、本当に信頼できて心許した相手しか連れてこねぇ。俺はそこから足洗ったから、巻き込まれないためにって涼介なりの気遣いだな」


足を洗う…じゃあもう風雅さんは、裏の世界から脱出したのだ。

つまり瀬野もいつかはそうなるのだろうか。