愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「まあとりあえずいつもの席に座っ…」


彼がそこまで言いかけた時、私とバッチリ目が合って。

途端にフリーズしてしまった彼は、手に持っていたグラスを床に落とした。


明らかにガラスが割れた音がして、慌てた様子のオーナーらしき人が怪我はないかと駆け寄っていた。


「り、り、り、涼介がついに…おん、おんな、女を連れてきたよ田中さん!」


どうやらオーナーらしき人の名前は田中さんと言うようで。

そんな田中さんも驚いた様子で私の方に視線を向けてきた。


「ほ、本当かい涼介くん!?」
「いえ…少し早とちりしすぎですよふたりとも」


困ったように笑う瀬野。

当たり前だ、こんな風に驚かれてしまったら困惑するに決まっている。


「りょ、涼介くんが女を連れてきたのは一大事だ…!風雅くん、最大限のもてなしをするんだ」

「了解です!」


けれど取り乱したのはほんの一瞬で、田中さんは割れたガラスの片付けをして、風雅さんが私たちを奥のカウンター席へと案内した。


「じゃあふたりとも、こっち座って」
「ありがとうございます」

私も瀬野のお礼に合わせて頭を下げる。
それから瀬野と並んでカウンター席に腰を下ろした。