愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




この時期は寒いけれど、この体勢は少し暖かい。

慣れた体勢のはずなのに、ドキドキしてしまう自分がいるのだから不思議だ。


どれだけ意識してるんだって。
バカみたい。



「バイク乗ってる時は川上さん、俺に身を委ねてくれるから嬉しいなぁ」

「……こうしないと危ないでしょ」
「まあ、そうなんだけどね」


クスクスと嬉しそうに笑う瀬野。
本当にムカつく。

私をイライラさせる天才だ。



それでも今は怒りを抑え、大人しく後部座席に乗ることにする。

しばらくバイクを走らせ、やってきたのは瀬野と深く関わるようになったきっかけのネオン街。


「……どこ、いくの」

あの日のことを思い出してしまい、危険な場所に連れ込まれるのではないかと不安になってしまう。


「安心して。裏通りには行かないし、川上さんを絶対ひとりにさせないから」

「…ん、破ったら許さないよ」
「もちろん」


まだ少し恐怖心があったけれど、瀬野がいるのならと心を落ち着かせる。

ネオン街を走ること数分、とあるビルの前でバイクが停まった。