愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「えー、まあいいや。
俺も手伝うって決めた」

「待って迷惑だから」
「ふたりで作れば完成速度倍だよ」


にこにこ笑う瀬野に対して私は不服だ。

まあここまで言われてしまえば、恐らく瀬野は折れないだろう。


「お雑煮はいる?」

とはいえ了承はせずに話を変える。


「お雑煮か、食べたいな。こんなに正月らしいことするの、初めてかもしれない」


本当に嬉しそうな瀬野を見て、ふと疑問に思う。
そういえば去年の今頃は何をしていたんだろうと。

高校一年の冬休み、この時から瀬野は女の人の家を転々としていたのだろうか。


それだけではない。
瀬野は今、“初めてかもしれない”と言った。

つまり彼は今までお正月らしいことを、したことがないのだろうか。


「…………」

まだ何も知らない瀬野の家庭環境。
とはいえ私が深入りすることでもない。


「じゃあお餅も買うね」

「なんだか太りそうで怖いなぁ。
これが幸せ太りってやつか」

「気持ち悪いこと言わないで。
もう瀬野にはダイエット食を作ってやる」

「川上さんの料理ならなんでも大歓迎だよ」


本当にこいつは。
人が喜ぶようなことをさらっと言ってのけるから怖い。