愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「逃げてるからね、俺は弱いよ」


強いけれど弱い。
ふとその言葉が再び脳裏を過ぎる。

瀬野には両親がいるけれど、その関係性はあまり良くないようだ。


きっとそのことに対して“逃げている”と言っているのだろう。



「私だって逃げてるよ。ちゃんと両親の死と向き合わずに、自分を偽ってここまで来たんだから」


表の私は常に明るくて、よく笑って。
そのような自分がいつの間にか完成していた。

たった今、ようやく前向きに考えようと思ったけれど、これからどうするのかなんて、まだわからない。


「それでも川上さんは強く在ろうとしてるよ。
今だって向き合おうとしてる」

「そのきっかけをくれたのは瀬野だよ。
だからありがとうって言ったじゃん」

「え…」


私の感謝の言葉に戸惑いを見せる瀬野。
彼にしてみれば少しおかしな表情である。


「人生、何があるかわからないね。
あっ、墓地が見えてきた」


朝は瀬野に対して嫌悪感を抱いていたけれど、今は感謝してるって私は単純なのだろうか。

嫌いだ嫌いだって思い込んでおきながら、今は少しだけ好感度が上がった気がする。