愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「どっちも優しくて、温かくて。多分他の家庭よりも甘やかされて育ってきた気がする。

お父さんもお母さんも笑顔が絶えない人で、近所の人たちからも好かれていたなぁ」


昔は私もよく笑っていたものだ。

3人で囲む食卓、お風呂上がりに大好きなアイスを食べながらリビングでのんびりした時間。


休日は出掛けに行くことが多かったし、年に1回以上は必ず旅行にもいっていた。



「でも厳しいところもあったんだよ。宿題は早めに終わらせなさいとか、部屋の片付けをしなさいとか。

まあ当たり前のことなんだけどね」


そのおかげで今は宿題をすぐ終わらせたり、部屋を片付ける習慣がついている。

両親の教えが今の私に役立っているのだ。



「素敵なご両親だったんだね」
「うん、自慢の両親だったな」

「だから川上さんも素敵な人なんだね」
「……え」

「ご両親の血を受け継いでる。
優しくて、温かい。川上さんの隣は居心地がいい」


そのように思ってもらえるほど瀬野に何かをした記憶はない。

けれど本人がそう思っているのなら別に否定まではしない。


「そういえば忘れていたなぁ…」
「忘れていた?」

「うん、お父さんとお母さんの楽しい思い出」


今まで辛さに押し潰されそうになり、楽しい思い出にも蓋をしていたのだ。

お墓参りにきた時も思い出されるのは最期の瞬間、それから叔母さんの家にいた時の辛い思い出。