いつのまにか不利の状況に追い込まれる。
「待って、触れるなって約束…」
「川上さんから触れてきたんだよ」
「それは瀬野がムカついただけで」
「焦ってる、かわいい」
「ひゃっ、どこ触って…!?」
大胆にも瀬野の右手が下へと降りる。
慌てて彼の右手首を掴むも、すでに遅かった。
「や、やめて…!」
密着状態で。
さらに瀬野は私に顔を近づけてきて。
顔を背けようにも自由が利かない。
「今日もキスまでなら良い?」
「…絶対にダメ。お願いだから離して」
ドキドキと鼓動が速まり、うるさい。
本当に危険だ。
「んー、そんな顔でお願いされたら聞くしかないなぁ。川上さんって本当にかわいいよね」
「う、るさい…!」
ようやく瀬野は私を解放する。
一方私は逃げるようにして洗面所へと向かう。
本当に嫌、どうして私がこんな風にされるの。
洗面所の鏡を見た時、自分の頬が赤く染まっていることに気づく。
いつも顔が熱い時、私はこんな表情になっているの…?
“女らしい表情”をしている自分が少しだけ悔しく思う。
だって、私をこうさせたのも全部瀬野だ。
「本当に、大嫌い…」
私の小さな呟きは、瀬野に聞かれることなく消えていった。



