愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「キスはいいんだ?」

「ばっ…かじゃないの!?
ダメに決まってんでしょ!」

「じゃあ俺たちもう何回もしてるから…付き合ってるに等しいね」

「頭おかしいんじゃないの?
誰が瀬野と付き合うか」


瀬野と付き合ったところでロクなことはない。
冬休みが明ければ、いつも通りの関係に戻るのだから。


「つれないなぁ」
「早く食べて準備するよ」

「うん、わかったけど…別行動の件はダメだからね?」
「…っ、じゃあ瀬野にもついてきてもらう」

「それなら大歓迎だよ」


お墓参りに行ったとして、果たして瀬野の前で強くいられるのか。

短時間で済ませるしかない。


どうか早くこの状況が落ち着いて、ひとりでゆっくりお墓参りに行きたい。

行けることを心から願う。


「ごちそうさま、美味しかったよ」


ご飯を食べ終えると、私は洗い物に取り掛かろうとする。

が、なぜか瀬野に止められてしまった。


「俺が洗うから川上さんは準備しておいて」

「え、なんで?いつもの逆でしょ、瀬野が作ってくれたんだから…」

「いいんだよ、今日は何もしなくて。
俺が全部するからゆっくり準備して」


私を気遣う言葉。
どうしてそこまでするのか、瀬野の意図が全くわからない。



「……何か企んでるの?」

「もー、どうしてそんな考えになっちゃうかな。昨日のこともあるし、負担をかけさせたくないだけだよ」

「別に、もう大丈夫だけど」

「じゃあ俺が全部家事したらさ、ご褒美として川上さんとキスを…」

「は?ふざけるな!
もういい、全部瀬野に任せる!」


全て言い終える前に遮ってやる。
あり得ない、何がご褒美だ。

それなら私も家事を手伝った方がマシだ。