「手を出さないって約束するなら来てもいいよ、家。
泊まらせてあげる」


私の言葉を聞いてさすがの瀬野も驚いたようで、目を見張った。

私だって自分がこんなことを言っていることに驚きである。


「それって…」

「一切私に触れないでよね、絶対条件だから。
あと…」


まるで自分に言い聞かせるかのように、続けて口を開く。


「あんたが哀れだと思っただけだから。
変に期待しないでよ」


決して自分の弱さではない。
弱さの共感ではないのだと。

自分と瀬野が“似ている”だなんて思っていない。
弱い自分を忘れるために強気な発言をする。


瀬野の返答を待たずに歩き出す。
バイクで10分も走れば、最寄り駅が別にあることだろう。

スマホを取り出して場所を調べようとしたけれど。


「駅はこっちだよ。
俺が知ってるから大丈夫」


瀬野が嬉しそうに笑う。
それが本物か偽物かはわからないけれど。

哀れだと口にしてもなお、その表情ができる彼の真意がわからない。


スマホをポケットに直し、瀬野の後ろを向いていく。



「ねぇ、手を繋がないで」
「今から触ったらダメなの?」

「ダメに決まってるでしょ、ただのクラスメイトなのに」


ここまで行ってもまだ瀬野は手を離そうとしない。

それでも今は外のため、変に声を荒げることは出来ない。


「今でさえ言うこと聞けないのに、本当に家で私に触れない自信あるの?触れた時点で家から追い出すけど」

「ふはっ、厳しいこと言うね。
大丈夫だよ、約束する」


その軽い口調がやっぱり信用ならないけれど。
触れた時点で本当に追い出せばいい。

これだけは身の安全として絶対に譲れない。


この選択がどう転ぶかはわからないけれど、一度瀬野を家に呼んだ時のように何事もなく終わることを願った。