むしろ刺激しているのではないか。
本当に瀬野という読めない人間は嫌いだ。
けれど瀬野が冷静なためか、それが映ったかのように自分も冷静になった私は、肘で相手の鳩尾を狙う。
「ぐっ…」
「川上さん、その場で屈んで!」
瀬野の声に反応した私は、力が弱まった相手の隙をついてその場に屈む。
すると瀬野の綺麗な回し蹴りが決まって、相手の体は地面に打ち付けられた。
あまりにも痛そうな音が響いたため、少し気の毒に思ったけれど。
「ほら、川上さん早く来て」
「えっ…」
「新たな敵が応戦してくるかもしれないよ」
戸惑う私の手をとり、瀬野は私を敵のバイクに乗せようとする。
「待ってこのバイクって…」
「挑んできた敵が負けたんだから、これくらい代償あっていいよね」
あまりにも簡単に敵のバイクを奪ってしまう瀬野に驚きつつ、逃げるためだと思い素直に乗る。
瀬野の腰にピタリと巻き付いて、夜道を走り出したバイク。
なんとも怒涛の展開だった。
一瞬で敵を倒してしまう瀬野の強さにも驚いたが、敵に捕まったというのに自分も冷静でいられたことが一番の驚きだ。
最初こそ恐れてしまったというのに、目の前の男の方がずっと恐怖の対象である。
「この辺りでいいかな」
10分ほどバイクに乗っていると、瀬野は突然道端で止まってしまう。
「え、降りるの…?」
「もちろん。このバイクにはGPSが付いてるだろうし」
「GPS!?」
「だから早く降りないとまた敵来ちゃうよ」
どうしてそんなにも軽い調子で言えるのだ。
もっと早く言ってほしい。
慌てて降りた私の手をまたとって、少し駆け足気味にその場を離れる。



