こうして、オレの高校生活は終わりを遂げた。




あれからしばらく
ナオくんと触れ合って別れを惜しんでいたが、
『今日は珍しく親父が帰ってくるらしい』と
しぶしぶその日はナオくんの家を離れた。

最後の最後に、親と過ごせるんだから
ナオくんは幸せ者だ。

家族は大切。
どんなに憎くても
無意識に愛し合ってるもの。

ナオくんだって、
ナオくんのお父さんだって、
最後くらい一緒に過ごしたかったに違いない。

だって、もうナオくんは………。





その日のうちに、夜行列車に乗って
東京へ旅立ってしまった。





お見送りの挨拶もできないまま、
彼は遠く離れていった。

次の日起きた時、スマホを見て
愕然と肩を落としたのを覚えている。

"行ってくる。またな。"

とだけ書かれたメールに、
どれだけ打ちひしがれたか計り知れない。

もう、すぐに会える距離には居ないんだ。

最後に、もう少しだけ
会って話がしたかった。
もう少しだけ、触れていたかった。

そんな後悔がいつまでも続いた。

数日後、突然彼からの電話があるまでは。




♪♪♪〜


〖着信 佐野原 尚〗




「もしもし…」


『……ヒイロ』


「…ナオくん、」


『……………会いたい』


「うん、…オレも、会いたい」




離れても、変わらずに
オレを想ってくれていた彼の事が

本当に愛しかった。




「…お母さんとはうまくいってる?」


『…………引っ越し終わって落ち着いたけど、
今すぐにでもそっち帰りたい』


「え…そんな仲悪いん」


『いや、……ごめん、ただの愚痴』




ナオくんは暫くこんな調子で、
東京ではあまり楽しくないようだった。

母親の元へ行けたのに、
うまく馴染めていないナオくんの沈んだ声が
重たくのしかかる。




「…暇があったらいつでも連絡してな?」


『うん、』


「オレ、すぐ返事するから」


『…分かった』




彼の辛い気持ちは全ては分かってあげられない。
でも、寄り添うことならできる。

ナオくんが必要とするなら、
オレは何だって応えてやれる。




『絶対、浮気せんでな』


「するわけないやん!」


『……せやなw』


「………ナオくんこそ、
東京は可愛い子がたくさんおるから…」


『ない、ありえへん』


「……うん、ありがとう」


『好きやで、ヒイロ』


「オレも…大好き」





ほどなくして通話は切れた。



それから毎日、ナオくんから
メールが届くようになった。

一日の終わりに、その日起きた出来事や
楽しかったこと、嬉しかったこと。
メールで少し話をして、互いに癒されたまま
眠りに落ちた。

家族の話はまだ出てこない。
でも、ナオくんは次第に
東京での暮らしに慣れていったようで、
友達もでき、新しい日常を過ごし始めた。

だんだんと明るくなっていった彼に、
少し安堵したものの

心にぽっかりと穴が空いたような

変な寂しさを覚えていた。




このまま、ナオくんは
戻ってこないんじゃないか。




そんな不安が渦巻いたまま、
オレは"大学"という新たな大きい荒波へ
静かに飛び込んでいく。