誰もいない、屋上前の踊り場。

下の方から小さく
先程の喧騒が聞こえている。

中原さんに引っ張られるまま
ここまで連れ去られてしまった。

唐突に連れていかれるオレを見て、
山下は『ごゆっくり』と笑ってた。

ひどい。





「ご、ごめんね…橋本くん。
山下と話してるときに…」


「や…オレはええけど…」





ナオくんがなぁ…。





「で…どしたん? 急に」


「あんな、あたし、」


「…ん?」


「橋本く…ひ、ヒイロくんのことが…」


「………、」





告白や…。

そう、すぐに悟った。


こんなに小さくて可愛い女の子なら、
本来は喜んで
このままデートにでも行くんやろうけど。

オレは、ちゃうからなぁ…。

あぁ、断らなあかんのかぁ…。
ツラいなぁ…。
どうやって言おかな…。

他人の高校生活、最悪な最後にしてしまうんかな…。

顔を真っ赤にして
目をうるわせる女の子を目の前に
オレは呑気に頭を悩ませていた。





「ヒイロくんのことが…好きです」


「…………」


「あたしと…付き合って、ください」





きっと、何もかも
振り絞って言ってくれた言葉。

オレがナオくんに告白した時のように、
彼女の中では思考がグルグルして
心臓の速さに追いついていけてないだろう。



それなのにオレの鼓動は
冷たいほど静かに動いていて、

ときめきも、嬉しさも、
何も沸き立ってこない。



強いて言うなら、
ナオくんへの罪悪感だ。



一人の女の子に、ナオくん以外の人に
恋愛感情を抱かせてしまっていた。

それが自分でも引くほど辛くなって、
中原さんにもどう声をかけていいのか
全く分からない。

傷つけて、終わらせることしかできない。


オレは何とか穏便に済ませ
山下たちの所へ早く戻ろうと、
必死で言葉を選んでいた。





「…ヒイロくん、」


「あ…うん、えっと、」





名前を呼ばれて
咄嗟に目線を上げた瞬間、

中原さんの靡いた髪が頬を掠め、
甘ったるい香水の香りが
ふわりと身を包んだ。





「こんなに好きなんよ、…ヒイロくん」







リップグロスで僅かに湿った唇が
正面からオレの唇を塞いでいた。