卒業証書の入った筒と
一輪の花を片手に、
昇降口へ向かうオレと山下。

教室や廊下、中庭にまで
生徒や父兄が溢れている。

それぞれ写真を撮ったり、
名残惜しそうに話し込んだり
思い思いに最後の時を過ごしていた。

それをただ、ぼうっと眺めて
山下と2人
ナオくんと田口くんが来るのを
待っていた。




「そういや…山下、親は?」


「ああ、もう先帰ったで」


「そかそか」




ふと、
教室が並ぶ廊下の方に目を向ける。

少し遠くの方に、
ナオくんの後ろ姿があった。




「あ、そろそろナオくん来るかも」


「ぉい〜、言い出しっぺの田口〜」


「田口くんが一番遅いなww」


「どうせ女子に囲まれとるww」




そう笑いながら、
もう一度ナオくんの方に視線をやると

彼の隣に
見知らぬ中年の男性が立っていた。

この場に合わない目立った格好で
そこだけ異質な空間に見えた。




「………………、」


「ん? あれ、佐野原の親か?」


「さ、さぁ…知らん」


「卒業式やのに…
普通あんなカッコで来るか…?」


「ちょっと…変よな」





その男性は
真っ赤なダウンジャケットを着ていて、
穴だらけのずんだれたデニムに
髪をだらしなくセットしている。
全くこの場にそぐわない服に身をまとっていた。

周りの父兄が
フォーマルなスーツに身を包んでいる中、
悪い意味でインパクトのあるその姿は
すぐ隣を通っている人たちを
ぎょっとさせていく。

間もなく、そこへ先生がやってきて
その男性はどこかへ足早に去っていった。





「…さすがに、センセーも声かけるわな」


「まぁ…あの見た目じゃ部外者やもんな…」





そう、ぽつりと陰口を叩いたところで
ナオくんがこちらを振り向いた。





「あ……」


「…今言ったんは内緒やで」


「お、お互いな…」





ナオくんの家の事情が
少し見えているからこそ
余計気になってしまう。

顔まではっきりは見てないけど、
後ろ姿が少し似ていたから
身内の人であることは
だいたい察しがついていた。



そうして、ナオくんがこちらへ
歩いて向かってくるのを
ゆっくり待っていると、

突然、小さく暖かい手が
オレの手を握った。

驚いて握られた手を見下ろすと、




「わ、えっ…」


「ごめん、橋本くん。
ちょっと…ええかな」




そこには


中原さんが立っていた。