カーテンから差し込む
眩しい光が

瞼越しに刺激する。




「ん…んん?」




開きそうにない目を擦りながら
無理やり開けさせると、

眩いくらいの日差しが
寝室を明るく照らしていた。




「え…朝…?」




慌てて枕元の時計を見る。
6時25分を回ったところだった。

普段設定しているアラームよりも
少し早い時間だったことに安堵しつつ、

ふと、すぐ隣で
こちらを向いて寝息を立てている
ナオくんの姿に気づいた。




「……………(かわいい)」





そう、結局あのまま
離れられなくなったオレたちは

いつまでも飽きずに
ひたすら抱き合っては撫で合い、

次第にナオくんは
家に帰ることが億劫になり

交互にシャワーを浴びて
オレのスウェットを着て、

そのまま一緒に
セミダブルベッドで眠りについたのだ。



キスのひとつでも
強請っておけばよかったと、
少しばかり後悔がよぎる。

頭や背中を撫で回すだけ。
男同士でまだ抵抗を捨てきれないのか、
ナオくんは頬に口付けする以外では
何もしてこなかった。

付き合った初日で
あれこれ要求するのは
間違ってるんやろうけど…。

何せ、初めての恋愛。
しかも同性。
奇跡的に付き合えたものの、
一体どうしていけばいいのか
さっぱり分からない。



とりあえず、慎重に、
今は起こさないようにしよう…。

ぼうっと、しばらく
眠っているナオくんを眺めてみた。



愛しい寝顔は、
まるで
幼い少年のようで、

普段の厳つい顔が
嘘のように無防備だ。

いつもライオンの鬣のようにセットしているのが
オレのトリートメントを使って
サラサラふわふわになってる髪の毛を
興味本位で触ってみると、

ナオくんは小さく眉間に皺を寄せた。




「あ…、ごめん…」




小声で謝って
そっと手を離したのも束の間、

ナオくんは薄く目を開いて
ニヤついていた。




「おはよ」


「お、おはよ」


「…もっと撫でて」




と、再び目を閉じ、
オレの胸元へ顔を埋める。

親友のときだったら、
絶対聞けない言葉だ。

素直に甘えてくるナオくんに対し、
初めて存在を知った母性が溢れ
きつく抱きしめて頭に手を這わせた。

慣れないことをすると、
すぐに胸が高鳴ってしまう。

それでも、大きな温もりに身を任せ
心拍の心地良さを感じていた。




「卒業式、やな」




服のこすれる音が聞こえるほど
静寂な空間の中で、
ナオくんの寝起きな低い声が
突如ぽつりとこだまする。




「…うん」


「寂しい?」


「………うん」




数時間後には卒業式が始まる。

できることならこのまま
時が止まって欲しい。

逃れられない現実が思い出され、
オレの声色は明らかに下がっていった。




「親は来んのん?」


「ん、来ぇへんってか、…知らんと思う」


「……そっか、俺んとこもや」




互いに、孤児も同然の身。
ナオくんはやっと
お母さんの元へ行けるけど、

でも今までずっと
学校以外では
どんな時だって一人だけで過ごしてきた。

そんな日々も、今日やっと報われた。

高校生活、
最初で最後の

二人ぼっちだ。




「…オレがおるよ」


「ん…」


「ナオくんには、オレがおるよ。
今日は一緒に、めいっぱい祝おう?」




照れくさそうに頷くナオくんを見て、
ようやく恋愛に踏み込めたという実感が
沸々と沸き立ってくる。

背が高く、ガタイの良い男子が
こうして可愛い姿を見せてくれるのは
恋人の特権だと改めて感じた。

初めての恋愛。

こんなに幸せで、どうしようもなくて
遠距離でも大丈夫なんじゃないかって

浮かれて根拠の無い自信が
確信へ変わろうとしていた。