肩から首筋にかけて
ぴっとりと、
ナオくんの冷えた鼻先が当たり
曇るような温い吐息が
オレのうなじを滑り落ちる。
ぞくり、と全身に鳥肌が立ち
ほんの微かな刺激が
瞬時に体を硬直させていた。
「……どしたん」
無表情を貫いているのに
その反応を楽しんでいるかのような声が
直接、鼓膜へと降りかかる。
大好きなナオくんの耳打ちは
元々低めの声が一段と低く掠れていて、
その僅かな振動が神経をこそばゆく震わせ
肩がぐっと竦み上がってしまう。
状況を把握しきれない
置いてけぼりの心臓が
音を立ててがむしゃらに動いていた。
「な、ナオくんこそ、どしたん…」
「…なんも」
少し微笑んだ彼は
お腹にまわした腕に力を込めた。
より、密着した体に
大きな鼓動が伝わっていく。
「めっちゃドキドキしとんな」
気付けば、頬のすぐ隣にナオくんの頬。
分かっていることを
わざと再認識させるように
意地悪な言葉を間近で吐き捨てられる。
オレは何も言い返すことすら出来ず、
ひたすら手のやり場に困り果て
俯きっぱなしのままでいた。
「……俺の事、好きなん」
「え、や…」
「…そっか…好きちゃうんや」
「ちがっ、」
否定すると同時に、
思わず横を振り向いてしまった。
目の前には、ナオくんの瞳が2つ。
近すぎてピントが合うのに時間がかかった。
ナオ君の艶やかな瞳には、
オレの瞳が映っている。
まつ毛まで、
しっかりと確認できるほどに鮮明だ。
「…ヒイロ、」
そんな距離で名前呼んで、
そんな切ない顔をされても
オレは何も、できない。
なにもかも、
その声や呼び方や表情と温もり、
全てが
オレの脳みそを溶かしていくんだ。
「なんで、また泣いとん…」
色んな感情が混ざり合って
オレは混乱しきっていた。
嬉しい、
切ない、
寂しい、
申し訳ない、
つらい、
好き。
大好き。
ナオくんが両手でオレの頬を覆い、
指で涙を拭ってくれる度に
また"好き"という感情が溢れていく。
「こういうことしたら…つらい?」
オレは少し考えたあと、
首を小さく横に振った。
もし、ナオくんにその気があるのなら、
期待してもいいのなら、
オレは幸せだ。
この距離にナオくんがいるのも、
オレにとっては奇跡でしかないから。
「ヒイロ、」
呼ばれて伏せ気味だった視線を
ナオくんの瞳に向けた。
額と額がくっついている。
大きな手で覆われた頬が熱い。
たった数センチ先に、ナオくんの唇。
このまま触れてしまえば、きっと今度こそ
親友ではいられなくなってしまう。
「今までたくさん
つらい思いさせて、ほんまにごめん」
既に首を振る余裕もないほど
両手で顔を固定されてしまっている。
正面から、ナオくんの言葉を全て
聞き入れることしかできない。
「もう一回、ヒイロの気持ちが聞きたい」
それは、もう一度告白しろと。
そういう…。
…ずるい、
そんな真っ直ぐ見つめられたら、
断ることなんかできひんやん。
近い。
息、かかる。
「お、オレ…、その…」
「…うん」
「ナオくんの、こと…」
「……………」
覚悟を決めたオレは
ゆっくり息を吸い直して
次の言葉を口に溜め込む。
同時にナオくんも
優しげに目を少し細めて
小さく息を飲んだ。
「ナオくんのことが、」
