オレの足音が聞こえると、
ナオくんはいじっていた携帯電話を
ポケットにしまい、
もたれかかっていた体を起こして
オレの方へ歩み寄ってきた。





「はやっ、家どれ?」


「あれやで」


「あぁ、目の前やったんや」


「ベランダから見えたもん」


「見えるわな、あそこからやったら」





何気ない普段の空気が流れる。
それはナオくんの優しさのような気がした。

ついさっきまでの
張り詰めた重苦しい雰囲気は一切なく、
いつもの穏やかで和やかな二人になっていた。

ただ少しだけ、お互いに緊張している。
それだけで、今は一緒にいて
なんとなく嬉しい気持ちになれた。





「何気にお前ん家くるの初めてやな」


「あ、せやなぁ。いつもナオくん家やったから」


「3年目の最後にして初めて
親友の家に遊びに来るっていうww」


「嬉しい嬉しいww」





自宅の玄関の前まで来ると、
ふとナオくんが足を止めた。





「…ていうか、親は?」


「あー…実はウチも、ナオくん家と似た感じやから」


「………お前も、一人?」


「……一人暮らし、楽よなww」





複雑そうな表情を浮かべるナオくん。

きっと、色々と思うことがあったんやろうと思う。
親どころか、家族の話を全くしてこなかった。

ナオくんだけではなく、オレもそうだった。


薄々気づいてはいた。
ナオくんが複雑な家庭環境にあること。

"いつも一人やから"と
家に呼んでくれていたのは

ほぼ一人暮らしをしているような環境だから、
という理由だけではなく

本当は孤独を感じていたんじゃないかと
そう、勝手に推測していた。


どこか似とる気はしとったんや。
それは、今置かれた境遇やった。





「部屋あっためてるから、
あったかい飲み物飲んでいって」


「………さんきゅ」






一歩一歩、靴を脱ぐところから
丁寧に動作していた。

人の家に上がることには
あまり慣れていないようだった。






「そんなにかしこまらんでも…ww」


「…俺、マナーとかわからんからさ…w」






ナオくんは苦笑いしながらリビングへ進み、
キョロキョロと部屋を物色しはじめた。

オレはキッチンへ向かい、
マグカップへお湯を注いだ。





「適当にくつろいでええから。

ココア淹れるけど、ミルクはどんくらいーーーー」






ぎゅっ







後ろから、ふわりと

大きな体が



オレの体を覆った。