「大学行ったら、
ちゃんと…女遊びするんやで」



ナオくんの言葉は、
オレの心をえぐり続ける。

気付いているのか、いないのか
分からないけれど

ナオくんの声は詰まって震えていた。



「誰やったっけ、中原さん。あの子、
お前のことずっと追っかけよったやん」



そんなこと、どうだっていい。
中原さんなんて、初めから興味無い。

オレは、ナオくんだけが
オレを見ていてくれればそれで、



「中原さんの気持ちには、
男としてちゃんと応えたれよ」



ナオくんが言いたかったことってそれ?
ほんまにそれ?
オレを、傷つけたいん?
それとも嫌いになって欲しいんか?


オレは、次第に怒りを抑えられなくなり、
ナオくんの腕を力強く引いた。




「ぅ、わ」


「ナオくんこそ、」


「………」




溜まりきった涙はとうとう溢れ出し、
見えているすべてのものがボヤけて揺れた。




「ナオくんも、東京で
たくさん彼女作って、恋愛して、
結婚して、子供作ってっ……」


「…ヒイロ、」


「オレよりもっと、
ずっと幸せに、…なって…な、」




意地だった。

なにもかも、意地で終わらそうとした。
そんな自分が悔しい。

怒りに任せて、
やけなことを言ってしまった。

オレは、また
自分の正直な気持ちを伝えられずに
わざわざ自分から辛い言葉を選んで

本当に人間として終わっとる。

抜け殻のように力が抜けて
ナオくんの腕を強く掴んでいた右手が
するりと解ける。



「……ヒイロ」


「ごめん、ほんま、ごめん、ナオくん」



両手で顔を覆って未だ流れる涙を隠した。



「オレ、やっぱ、どうしても、」



自分の手でナオくんの姿が見えなくなると、
まるで滑るように言葉が出てくる。



「もう、つらい」



オレは、最初で最後やと
このままの勢いに任せて
思い切った。



「もしオレが、男やなくて女の子やったら

ナオくんはオレと付き合ってくれてたん、かな…」