ナオくんと二人だけの、
狭い路地。

突き当たりの別れ道まで
時間をかけてゆっくりと歩く。

名残惜しいように、
離れ難いように。


明日で、この道を通るのも終わりだ。

この道を、ナオくんと歩くのも
明日で、最後なんや。


お互いに、声はかけなかった。
多分、同じ気持ちに浸っていたから。


この時間、この場所で
隣に大好きな人がいる。

その感覚を、
しっかりと噛み締めておきたかった。

思い出として、ずっと忘れないように。


気づけば、また浮かんでる涙。


卒業式なんて、泣かないわけがない。

やっぱり、寂しいし、つらい。


もっとずっと、友達でいられると思ってた。

いつでも遊べる、いつでも会えると思ってた。




『明日、佐野原に告るやろ?』




オレ…、オレは、

やっぱり、

このまま離れるとか

絶対に嫌やーーーー






「ナオくん」
「ヒイロ」






ほぼ同時にお互いの名を呼んだ。

自分もナオくんも、
驚いて目を丸くする。



「…どした??」



ナオくんは優しく笑って
オレの方に譲ってくれた。

でも、

いざ機会を与えられると
足がすくんで何も言葉が出てこない。



「な、ナオくんから…ええよ」


「ん…俺のは、別に…大したことちゃうから」


「…オレも、」



胸が、痛い。

言いたいのに、言えない。


オレは俯いてしまい、
お互いに沈黙が続いた。



すると、ナオくんは
再び踵を引きずって
ゆっくりと歩き出した。



「ごめんな、ヒイロ」



オレも合わせて
後ろからナオくんの背中を眺めて
足を前に進めた。



「…なんで?」


「俺のせいで、高校で恋愛できんかったな」



前を向いたまま後ろを振り返ることなく
話を続けるナオくんを見て

また胸がキリリと傷んだ。


友達になる前と、似た光景だ。


ナオくんのせいで恋愛ができんかった…?


オレはずっと恋愛してたよ。

高校1年から3年までずっと。

ひとりで。

ナオくんに、恋してたよ。


ナオくんには、それが伝わっていない。
伝わらない方が良い。


それなのに、伝わって欲しい。


遠い、遠いわ、ナオくん。


こんな、すぐ近くに、目の前におるのに。




どんだけ心の距離あるんや。





悔しくて、悲しくて、

広い背中の後ろで

音を立てないよう

静かに泣いていた。