ドサッ



「っ…、」





天井が見えている。
いや、その見えているはずの天井は

ナオくんの大きな体で
少ししか見えない。

勢いよく体を押し倒された衝撃で、
肩と背中が少しジンジンする。





「な、ナオくん…?」


「…………」





ナオくんは、何も喋らない。

薄暗い部屋、頼りの電球すらも
チカチカと点滅し始めた。

これが消えてしまったら
窓から差し掛かる月明かりしか光がない。

こんな状況で真っ暗になってしまったら…。


オレは一気に不安に駆られた。


ナオくんを怒らせた?
このまま、殴られるかも。
暗い、怖い。
暗闇と逆光でナオくんの顔がよく見えない。





「ちょ…ナオく、」


「…ヒイロ」


「っ…」





今まで口を開かなかったナオくんに
突然名前を呼ばれて肩が反射的にビクつく。

そんなオレの肩を、
ナオくんはオレに覆い被さりながら
優しく抱きしめた。





「………えっ、ね、ちょっと、ナオくんっ」





焦ったオレは慌てて離れようと
ナオくんの体を引き剥がそうとした。

そうすればするほど、
オレの肩を抱くナオくんの力が
みるみる強くなっていって

次第に苦しくなっていった。





「なっ…なお、く…苦しいっ」





少しだけ力を緩めてくれ、
息ができるよう、今度は横に寝転がって
オレを抱き寄せた。

ついに電球もつかなくなり、
部屋の中には月明かりだけ。



ただただ、混乱していた。

殴られないことは悟ったものの、
これまでにされたハグとは
少し違うものだった。



ナオくんが動くたびに、
ナオくんの良い匂いがする。




「…………さびし、」




今まで一度も感じたことがない距離で
ナオくんの声が響いた。

その声は、泣いているようだった。




「俺だって、寂しい、」




堰を切ったように溢れ出す
ナオくんの心の声。

その言葉一つ一つが、
重く、鋭く、全身に突き刺さる。




「行きたくない、ずっとお前らとおりたい」




静かに消えていく声とともに、
俺の首元がナオくんの涙で湿っていく。




「キモいかもしれんけど、
俺…俺は、お前と、
ヒイロと、…離れたくない」


「え、」




小さく震えた声で、
またオレの名前を呼んだ。




そういえば、ナオくんって
誰よりも名前を呼んでくれる。

ずっとそうやった。

誰といても、
どんなに遠くからでも、

オレの姿を見かけたらすぐ

ヒイロー、ヒイローって。




ねぇ、ナオくん。

オレって、やっぱり
ナオくんにとって
少しは特別な存在になれたんかな。




"親友"以上の、なにか特別な
大きな存在に、なれたから…

こんなに大事にしてくれるんかな?




ねぇ、ナオくん。




少しだけ顔を離し、
至近距離でオレを見つめながら
そのいかつい目から涙を落とす彼。

つられて頬を伝うオレの涙を拭った彼は

切なく笑った。






「好きやで、ヒイロ」