既に星空が見える帰り道。
狭い路地の中、一人ぼっちで
街灯の明かりを頼りに足を引きずる。
オレの頭の中は
先ほどの田口くんとの会話が
永遠と渦巻いていた。
『あいつ、母親が関東の方におってな、
高校卒業したらそっちに引き取られるんやって』
『あいつがこの街におるんも、卒業までやで。
生まれた時からずっと此処に住んどったのに、
あいつもあいつで地元離れるのがしんどいんやと思う』
『お前のことを本気で大事にしてたのを知っとるから
あえて言わせてもらう。
ほんま、冗談抜きで会いに行ってやりーや。
今優しく励ましてやれるんはお前だけやで』
知らんかった。
なにも。
親友なのに。
聞いてなかった。
なんで。
オレは本当に必要とされてるのか?
そんなことが頭を駆け巡りながら
足はひたすら前へ前へと進んでいく。
もうすぐ、突き当たりだ。
左に曲がるか、右に曲がるか。
左へ曲がればナオくんの家。
右へ曲がれば自宅。
踏ん切りがつかないのは、
きっと、友達でいるはずの自分自身が
同性愛者なんだとはっきり認識してしまったから。
ナオくんの家に行くのがすごく怖い。
きっと、すぐにバレてしまう。
もう、バレてしまってるかもしれない。
そう思うと、怖くて近寄ることすらできない。
でもーーーーーー
『なぁ、頼むから行ってやってくれよ。
最後まで仲良くしてろよ。
このままやと、あいつもお前も可哀想で見てられへん」
ナオくんの親友にあそこまで頼まれてしまっては、
……あんなに心配かけてしまっては。
そしてオレも、やっぱり乗り越えたいから。
オレだって、卒業してもずっと"友達"でおりたいから。
突き当たりの別れ道。
田口くんから背中を押してもらったオレは
迷うことなく左の道を選んだ。
