「…なん、で…?」




ようやく声を振り絞って返事を返しても、
動揺しているのが丸分かり。

田口くんはそんなオレに
深くため息をついて、
肘をついて前のめりになり
周りに聞こえないよう小声で耳打ちをしてきた。




「お前、ゲイやろ」


「っ!!!」




自分の中で核心的なことに触れられた衝撃で
思わず恐怖を感じ肩が竦み上る。




「……ヒイロ、」


「言わんといて…っ」




田口くんの口から、
次に出てくる言葉を聞きたくなかった。

怖かった。

自分がゲイだとはっきり認めることも。
周りからそう認識されるのも。


まだ少ししか食べていないのに
食欲が一気に無くなっていく。


オレは田口くんの方を見ることができず、
ずっと下を向いて震えていた。




「はー…、やっぱりな」




また大きく溜息をついて
ステーキを頬張る田口くん。

やっぱりって…。

いつ?
いつ、バレた?

っていうか、そんなにバレるほど
オレ態度に出てるか?

ということは、山下も、もう…。


あらゆる不安で頭から血の気が引いていく。




「山下はアホやから
全然気づいてへんっぽいけど」


「ほっ…ほんまに!?」


「…おれはしょっぱなから勘付いてた」


「……………………」




山下にバレてないなら…いっか。
他にもバレてる可能性は低いやろうから。




「あの…田口くん…」


「ん、」


「お願いやから…、誰にも…」


「……………………」




黙ってオレの話を聞いている田口くんが、
かえって怖くなってくる。

今、何を考えとるんやろう。

同性が好きなオレを目の前にして。
気持ち悪いとか思ってるんかな。

そう思ったら、ナオくんにも
同じように思われてるような気がして、

最近少し冷たいのは、オレがゲイやって
バレたからなんかな、とか思って

頭の中がぐちゃぐちゃになって、
声が震えて目の奥が熱くなった。




「お願い…ナオくんにも、絶対言わんとって…っ」




できる限りまで頭を下げた。
まぶたから涙が落ちて目の前のテーブルに
水たまりを作る。

周りの喧騒なんて何も聞こえなかった。

ただ、どうしようどうしよう、と
もうバレてしまってどうしようもないのに
ひたすら怯えていた。




「…そんなにアイツのこと好きなんか」


「………………」


「んー…別に大丈夫と思うねんけどなぁ」


「え…」




大丈夫って、どういう意味でーーーーーー







「だって…おれ、ヒイロ結構イケるし」







……………………はい?