そしてオレは、
ナオくんと親友になることが出来た。



下校中の日課も、
ナオくんの後ろ姿だけ見ていたのが
いつしか肩を並べて
一緒に歩くことが多くなった。

もう、タイミングをはかることなく
自由に「一緒に帰ろう」と
声をかけられる。

何より嬉しいのは、
ナオくんからも声をかけてもらえること。

親友になった今でも、
やっぱり好きで好きでたまらない。



片思いの状態ではあるけど、
どういうわけかナオくんは
俺の事をとても可愛がってくれるし、

他の友達よりも、女の子よりも、
一番にオレを優先してくれる。



オレはもう、それだけで大満足やった。



オレには充分過ぎるくらい、
たくさんの友情を与えてくれている。

それだけで幸せやった。



いくら恋愛感情を抱いていても、
普通の男の子であるナオくんに
その思いをぶつけることはしたくなかった。

だから家に遊びに行った時は、本当に大変。

常にナオくんの匂いに包まれていて
内心ゲームどころの騒ぎではない。

胸はドキドキするし、
必然と距離も近くなるし。

それに、物のセンスも良いから
何度来てもキョロキョロ見渡してしまう。



ナオくんの部屋は、モノクロテイストで揃えられ
置いてあるものほとんど黒。
色がたくさん入ったのは目がチカチカするから苦手なんやて。



かわいい。






今日もまたナオくんの家に呼ばれ、
カーレースゲームに奮闘していた。



オレはナオくんに、
ふと質問を投げかけてみた。



「ナオくんさ、なんで
そんなにオレと仲良くしてくれるん?」


「んー?」



話をする時はいつも、
コントローラーを操作しながら
2人とも気持ち半分で会話をしている。

だから少し恥ずかしいことも
自然に聞くことが出来た。

普段ならきっと言わないであろうことを、
ナオくんが適当に答えてくれるからだ。



「お前またそうやって俺の邪魔しよるやろww」


「あっ、バレたww」



2人で体を傾けながら
ゲーム内の峠をドリフトで攻めていく。



「実は、ヒイロのこと入学式ん時から知っててん」


「えっ」



意外な言葉に動揺し、ハンドルが乱れて
ガードレールにぶつかってしまった。



「あっ、やば」



ナオくんは何も動じることなく、
そのまま淡々と語り始める。



「俺のクラスに俺の連れおるやろ、
移動の時いつも一緒におるやつ」


「う、うん」


「あいつがな、お前のこと知ってて」


「え、そうなん?」


「入学式ん時に、
"あのイケメン仲間にしたら女来そうやな"
とか言うててな」


「えぇぇ…」




そ、そういうことかぁ〜…。
別に女の子寄ってけーへんのに…。




「でも意外とさぁ、話してみたら
なんか、女よりも可愛いやんか。
誰やっけ…あ、中原さんより全然可愛い」


「えー、なんやそれw」


「いや、ホンマに。
人見知りなとことか、
俺がコイツの心開いたる!みたいなww」


「ははww 開いたでww」


「そ、せやからめっちゃ嬉しい」




既にレースに負けてしまって
ゲームオーバーになってるオレは、
コントローラーを手放し
ぼーっとモニターのゲーム風景を眺めていた。

こんなに幸せな空間が流れていて、
まさに夢が叶ったというかなんというか。

俺自身に興味を持ってくれたという事実が
心臓に突き刺さって、
もっとナオくんのことが好きになっていく。




「それに、俺の弟に似とるなぁって」


「えっ、弟おったん?」


「あ、やべ、タイムギリギリ」




ナオくんの操っていたスポーツカーも止まり、
ようやくレースが終わった。




「あー、でも新記録でたわww」


「ね、弟くん、おるん?」


「……おるよ、一応」




歯切れの悪いナオくんの声に
なんとなく触れにくさを感じ、
それ以上聞かないことにした。




「そっか…、
オレそろそろ帰るから、いつか見してね」


「え、もう帰るん」




名残惜しそうにゲーム機の電源を切り、
2人で立ち上がって玄関へと向かう。




「今日もおじゃましました」


「どうせいつも一人やし、
たまにはお前から遊びに来てやww」


「うん、ありがとう」





こうして、少しずつ小さな変化を加えていきながら
今日という日常を過ごしていく。

それは、普通で、変哲もなくて、
はたから見れば大したことのない
つまらない日々だと思うけど。




オレにとっては、人生で一番幸せな日々だった。