「……え?」






ナオくんの顔を見上げると
困惑している涙目のオレから一瞬目を逸らし、

ようやくしっかりと
オレの顔を見つめて
口を開いた。






「お前、俺の事ホモかなんかとか思うてんのか」


「べ、べつに…」


「外国のやつなんかも男同士で
友達として普通に抱き合ったりするで」


「…まぁ…たしかに…」


「せやから…なにもそこまで拒むこと…」






「でも、中原さんがこの場面見たら…」






正直、名前を出したくはなかったけど、
スキンシップを軽く考えている彼のために
女の気持ちが分かる今だからこそ

オレが言ってあげなきゃいけない。
そう思った。






「…は?」


「好きなんやろ…? 中原さんのこと…」


「……いや?」







思わず目が点になるオレ。







「むしろお前が好きなんちゃうんか」


「いや、オレ…今は本当に好きな子いないから…」


「…ほんまかぁ?」


「う、うん…」






なんでオレが中原さんを好きなんて
勘違いしてるんやろ…。

オレはずっと、ナオくん一筋やのに。






「ナオくんこそ、
…さっきあの子気になってるって言った」


「…気になっとるだけで、別に好きちゃうわ」


「でも…」


「ほんまに!俺そこまで深い意味はなかってん!
ただお前に彼女が出来たら寂しいやんか!」






少しの沈黙が流れる。


言葉の、アヤ、とは、この事ですか?
気になるって、存在がってこと?


それは、オレは期待して良いってことなのか?
いや、でもホモではないって言うてたから…。

え、オレに彼女できるかもと思って嫉妬…?

それは、恋愛感情ではなくて…?

普通の友達ならハグくらいするかもしれへんよ、それは。
でも彼女ができるからって嫉妬は…、




いや…するのか…?
するのかもしれない…。





「ナオくん…それって」


「照れ隠しで…適当言うただけやんか、」


「そっ…えぇ…」


「真に受けんなよほんまにもう…」





しゃがみ込んでしまったナオくんに駆け寄り、
自分も一緒にしゃがんで慌てて声をかける。





「ご、ごめんね、ナオくん…」


「もぉー…あかんわ許さへん」


「ええ…」


「お前がなんか泣いてたから
やっぱあの子のこと好きやったんかなと思って
悪いこと言うたなとか思って
友達断ってここまで追いかけて…もう…」


「ご…ごめんホンマに…」





ただ謝ることしか出来なかったけど、
心の中でほっとしている自分がいる。


中原さんのこと、
本気で好きなわけちゃうんや。


中原さんや友達よりも
オレを心配して追いかけてきてくれたんや。


そう思うと、なんだか嬉しくて
気付けば、うなだれるナオくんの肩に触れて
顔を覗き込もうとしていた。





「ナオくん、ごめんやって」


「もうええから………俺より先に彼女作んなよ」


「え、」


「作んなってのは冗談やけど…
せっかく友達なれたんやし、
俺に寂しい思いさせんといて…」





消えそうなナオくんの声が
少し面白くて、
ちょっとだけ吹き出してしまった。

ナオくんより先に彼女作るなんて、
絶対ありえへんのに。

だってオレ、ナオくんのことが好きなんやから。





「ぷっ…わかった…ww」


「何わろてんねん、お前ぇー」


「んーん、なんか嬉しくって」


「…なにが」


「オレ、ナオくんの
友達でおってもええんやんな…?」






ようやくオレの顔を見たナオくんは
いじけたような不貞腐れ顔で
オレの頬を両手で抓った。






「顔、近い」


「いてて…ごめん…」


「当たり前やろ、
高校卒業しても親友でおりたいで俺は」






そう言ってオレの頭を軽く撫でて立ち上がり、
いつものように踵を引きずりながら歩いていく。


ナオくんに触れられた
頬と頭のてっぺんが熱い。


余韻に浸りながらも慌てて立ち上がり、
ナオくんの後ろから歩き出した。


嬉しさと少しの希望を胸に、
今日もナオくんの背中を見つめて歩いた。









「ナオくん、ありがと」


「ナオくん呼びが可愛いから今回は許す」


「えっ…か、可愛いかな…」


「あーやっぱり、
今日俺ん家で一緒にゲームしてくれたら許す」


「ええっ、う、うん…ありがと」


「あと…、泣いてた理由教えてくれたら許す」


「それは…やだ」


「くそー」