帰宅途中。

今日は久しく、
目の前に誰もいない狭い路地。

酷く感傷に浸っているオレにとって、
周りに誰もいないのは好都合だった。


儚い片想いも終わり、
しばらく辛い日々が続く。

それでも何事も無かったかのように、
いつかは忘れ去って生きていかなきゃいけない。


オレの切ない恋心は、こうして
淡くもあっさり失恋に終わったんや。
もう、認めるしかないやろ。


だってナオくんは普通やから。
何も悪くないねんから。

当たり前のこと言うてるだけやから。


オレが頭おかしいだけやから。




そう、思っているのに。

オレに向けてくれた笑顔が
未だに脳裏から離れない。




ああ、かっこいいなあ、本当に。

怖い顔してるのに

優しく笑ってくれるのも、

無邪気に友達とじゃれてるのも。

好きやなあ。

全部好きや。

あかんやんオレ。




また涙が出てくる。


もういい。


1人だけの帰り道、


思い切り泣いて帰ろう。




そう思った矢先。





タッタッタッタッーーーー


「ヒイロ…!」





後ろから腕を力強く掴まれ、
吃驚して振り返ると

そこには息を切らしたナオくんが
眉間に皺を寄せて俺を見下ろしていた。

額から頬を伝い、顎まで流れる何筋もの汗が
相当な距離を走り抜けてきたことを物語る。





「ナオくん…?」


「はぁ…もう、なんやねん、
なんで泣いてんねんお前」


「え、」





そう言えば

オレ今、思い切り泣こうとしたところやった。

どうしよ。




誤魔化す暇もなく、
言い訳すら思い浮かばない。

慌てふためいて涙を拭うオレは、






ナオくんの体で

視界が真っ暗になっていることに

気が付かなかった。