「ヒイロ、帰ろー」


「あ、うん、ちょまって」




山下が昇降口から手招きをしている。

まだ収めきっていない教材を急いでカバンに詰め込み、
駆け足で下駄箱に向かった。



いつもより少し遅くなってしまった。

…もう、間に合わんかな。





「ヒイロ今日もまっすぐ帰んのん?」


「あ…うん、まあね。勉強せんと、試験も近いし」


「相変わらず真面目」


「そんなんちゃうやん、普通のことやて」





そうは言うものの、本当は勉強のためだけではない。

通学路の中、友達に気づかれないよう
前後左右にワラワラといる同じ制服を着た生徒を見回す。



…おらへん。



しっかり見れてないけど、ぱっと見おらへん。
やっぱ帰ったか…。





「ヒイロは成績もよければ女にもモテるもんなぁ〜」


「や、やめぃ」


「おこぼれの一人や二人ほしいわ!」


「おらんてそんなん…」





しょうもない話の最中も、どうしても気になって周りを見回す。

その姿を見つけられないもどかしさが

オレの胸をキュッと締め付けた。