椿は海の方へ視線を向けた。
連日、市場で花を仕入れて、閉店後も最後まで店に残って支度をしている海。

一体いつ眠っているのだろうか・・・と椿は心配していた。
目の下には大きなクマ。その表情も疲れている。

作業台の上には結婚式会場に飾る花飾りがたくさん並べられている。

「あー。一服」
大きく背伸びをしてから海はいつもの店の裏口へ向かった。

その後ろ姿を目で追う椿。
背が高くて細身の店長。ぶっきらぼうでも深いところに優しさを持っていると、一緒に仕事をしてわかってきた。奥さんとオープンさせたこの店を、奥さんを亡くしてから一人で切り盛りして、そこに凌駕が店員として加わったところまでは知っている。
でも、なぜ奥さんが亡くなったのか・・・そこまではわからない。
ただ、わかるのは店長は今でも奥さんを愛しているのだろうということだ。

次々に一緒にいる男が変わった母親しか見ていない椿にとって、一人の人を想い続けている店長の想いはうらやましくもあり、まぶしくもあり、それでも少し理解できなかった。