「店長」
不意に椿が海の頬に自分の手を伸ばす。
「ん?」
海が椿の言葉に耳を澄ませる。

「私が店長の生きる理由なら。」
「・・・」
「ちゃんと生きてください。生きることをあきらめないで・・・。一緒に前に進んでください。」
椿の声はいつものように震えてはいない。
しっかりとした声で海から目をそらさずに言う。
「ここに奥さんを抱きしめたままでいいんですよ。きっと。そのまま、前に、一緒に進みましょう。」
椿はそう言って海の胸に手を触れた。

海は自分の胸に置かれた椿の手の上に自分の手を重ねる。

椿の小さな華奢な手はすっぽりと海の手の中に納まった。