ワケあり花屋(店長)とコミュ障女子の恋

『椿』
幼い椿は母に手を引かれてこの場所へ立っていた。
『椿の名前は、椿のお父さんがつけたのよ』
その頃から母は新しい男を見つけては椿を放置して何日も家に椿を一人にして出歩いたり、新しい男を、住んでいる部屋に連れ込み、椿を隣の部屋に閉じ込めたりしていた。

ちらりとつないでいる母の手を見ると何本も自分で手首を傷つけた跡がある。

椿は男に別れを切り出されるたびに、荒れて酒を飲んだり、自分の手首を切る母を間近で見ながら、母が死んでしまうのではないか。消えてしまうのではないかと恐怖を感じていた。

だから、本当の父は誰なのか、椿は母に聞けなかった。

『ママは・・・椿のお父さんが一番好きだった。』
そう言って涙を流す母の横顔を今でも鮮明に思い出す。

自分の父が生きているかどうかも分からない。
でも、悲しむ母にそんなこと聞けなかった。

それでも、自分の中に流れる半分の血は母が一番好きだった人であるという事実に、少しほっとしていた。