再び気まずい空気が流れ、瑛太の事はこれ以上触れたくなくなって、私は黙り込んだ。

 駅の周辺に足を踏み入れたことで、定期を鞄から取り出す動作をしているうちにまた流れが変わった。

「ところで、今日はどこへ寄り道しにいくの?」

「乗り換えする駅を出たところに、大きな本屋があるだろ。そこへ行こう」

 本屋と聞いた時、私はすぐさま反応した。

 それなら、自然と心ウキウキとしてくる。

 さっきまでのぎこちない話題はすっかり薄まって、話題は本のことに占領された。

「いいね。新刊どんなのが出てるんだろう」

 自分の分野の話題が出ると、気分も楽になってさっきまでの話はすでに過去のこととなってしまった。

 もちろん、一緒にいるだけでドキドキはずっと続くけど、興味のある事が話題になると水を得た魚のように自然体になれた。

 そして電車に乗り、途中下車をして私達は本屋へと向かった。

 電車を乗り換える主要駅だけに、ショッピング街となって人が溢れかえっている。

 私は拓登とはぐれないように彼の後をぴったりとついていった。

 本屋の中は本を選んでいる人、立ち読みしている人、ぶらっと見に来ている人たちが至る所にいる。

 通路に人が溢れるとお目当ての本が探し辛く、また行きたいところへすぐにいけないのが窮屈さを感じさせた。

 品揃えもよく、大きな本屋なだけに集まってくる人も半端ない。

 これだけ人が居た方が活気があって、楽しくもなってくるのはやはり私が本好きだからだろうか。

 本屋の中では私が先導して拓登を引っ張り、文庫が沢山あるところへと連れて行った。

 拓登は気になった本を引っ張り出してはパラパラとページをはじく。

「真由はいつもどうやって読む本を選んでるんだい?」

「好きな作家やジャンルとか、後は表紙なんかも決め手になったりする」

 私がお薦めの作家の本を指差したり、ネタバレしない程度に粗筋を言っていたとき、いきなり肩をポンと叩かれ、びっくりして後を振り返った。

 そこには千佳の双子の弟の明彦が立っていた。