雨の滴と恋の雫とエトセトラ

 その後、不思議な感覚に囚われながら、拓登と瑛太の事を考えながら電車に揺られて学校に向かう。

 考え事をしていると、いつ学校についたかも気がつかないほどだった。

 私が教室に着いたとき、普段あまり話す事がない矢田逸美が「おはよう」と寄ってきた。

 もちろん同じクラスだから挨拶は返すけど、露骨に寄ってくるには理由があるだろうと思っていた。

 案の定、やはり私と拓登の事を訊いてきた。

「ねぇねぇ、倉持さん、いつから山之内君と親しくなったの? どうやって知り合ったの?」

 私が答えに困っているというのに、しつこく何度も訊いてくる。

「どうして黙ってるの、教えてくれてもいいじゃない」

「あのね、私もよくわからないうちに仲良くなったって感じで、そんなに人に話すことじゃないと思う」

「倉持さんって結構お高くとまってるんだ」

 なぜこんな事を言われなければならないのだろう。

 冗談のように笑いながらはっきりと言ってくるが、彼女にしてみれば、悪気はないのかもしれないけど、朝から気分が悪くなってくる。

 自分の友達でもない人にベラベラと喋る方がおかしいとは思わないのだろうか。

「いいな、倉持さんって。やっぱりかわいいと得だね」

 まるで拓登が私を顔で気に入ったみたいな言い方がかちんときた。

 でも、その時、どうして拓登は私が気になったのだろうとふと思った。

 やはり傘を貸したあの行為が一番の原因だろうか。

 それにしても、あんな一瞬のことで気になるものだろうか。

 『大切な人だから』『僕を真剣に見て欲しい』『拓登と呼んで欲しい』『瑛太には惑わされないで欲しい』

 些細な出会いがあっただけで、これでもかこれでもかというくらいに、ドキドキとする言葉を一杯投げかけられた。

 あの時瑛太に触発されたとしても、ここまでいいきれるものだろうか。

 そういう私も、拓登の評判に意識し始めて、結局はあの甘いマスクをマジかに見てやられてしまった。