雨の滴と恋の雫とエトセトラ


「ちょっと、何すんのよ」

 私はびっくりすると同時に腹が立って、無意識に片方の手が上がって今にも突っかかりそうにキーっとにらみつけた。

 池谷君は、咄嗟の私の反撃に驚き、お手上げと言わんばかりに両手を前に出して及び腰に仰け反った。

 それでも余裕でヘラヘラと笑っているところが、益々腹立たしくなる。

 辺りは民家が並ぶ、人も車もごっちゃに行き来するような道路で、人通りがなかったことだけが唯一、不幸中の幸いだった。

 こんなことを近所の誰かに見られていたらどんな噂が立つかわからない。

 私は辺りをキョロキョロして人がいないことを確認する。

 そしてハンカチをポケットから出して、何度も頬を拭いた。

「おいおい、まるでばい菌扱いだな。俺、これでも結構女にはもててるんだぜ。割とイケメンだって中学では評判だったの知らないのか?」

「知るわけないでしょ。池谷君のことなんて全然眼中になかったし、全く記憶にありません」

「そこまでいうか。まあ俺のこと男として見ていないから、俺、倉持のこと結構好きなんだよね。周りに左右されずに自分の意見が言えるというのか、気が強い ところとかも。他の女は猫被ったりしてさ、俺がちょっとしゃべるだけで目の色変えて気があるなんて思って舞い上がるから、やり難くてさ」

「池谷君って見た目通りにチャラチャラしてるのね」

「もしかして、俺のこと蔑んで見てるんじゃないの? 俺、こんな制服着てるからどこの高校かも分かってるんだと思うけど、一応そんなに悪くないぞ。結構普通な方だと思うぜ」

「別にどこの高校行ってたって、そんなの関係ないわよ。ただ、無理やり頬にキスするなんて酷いじゃない」

「何を今更。俺、倉持にキスしたの初めてじゃないぜ」

 その時、私は「ん?」と一瞬声が詰まった。