雨の滴と恋の雫とエトセトラ

「真由、もういいじゃないか。僕はもう気にしてないから。前半よりも後半の楽しさを思い出そうよ」

 拓登が私をなだめようと必死になると、私はもう何も言えなくなった。

 『それみろ』とでもいいたげに、瑛太が調子に乗って笑みを浮かべている。

 腹いせで、瑛太の足を踏みつけたくなるほど、苛ついた。

 私がくすぶっている中、拓登はヒロヤさんの作ったデザートの事を思い出して、美味しかったと満足していた。

「あそこで、キーライムパイが食べられるとは思わなかった。あれ、僕、結構好きなんだ」

「拓登は甘いものが好きなのか」

 瑛太が興味津々と訊いていた。

「うん。チョコレートチップクッキーはいつも食べてた」

「うわ、まるでクッキーモンスターじゃないの」

 私がそういうと、拓登は調子に乗って「ミー、ウォント、クッキー」とクッキーモンスターの真似をしていた。

 やはり発音が奇麗だった。

「セサミストリートは子供の頃良く見てた。それで英語を学んだかも」

 拓登は隠す必要がないので、過去の話をしているのが不思議だった。

 全く知らなかった拓登が見えてくるようだった。

「私も、あのキャラクターはすごく好き。特にアーニーとバートのコンビがなんかいい」

「ああ、あれか。あの二人は結構噂になって、裏設定があるとか言われてるよね」

「裏設定?」

「いや、なんでもない。知らなければそれでいいから」

 拓登は笑って誤魔化して、瑛太に助けを求めるように振り向いたが、瑛太は助けようともせず無表情だった。

 拓登は慌てて何かの話をしようとしたのか、またヒロヤさんのデザートの話になり、そこから『艶』という名前の話を持ち出した。

「私も、あの喫茶店らしくないイメージだなって思ってた。明彦君はその由来を知ってそうだったけど、教えてはくれなかった。そのうちわかるからって。どういう理由があるんだろうね。瑛太は何か知ってるの?」

「えっ」

 急に振ったことで、びっくりしたのか、瑛太が面食らうように驚いていた。

 これは何かを知っていると思うと私は突付きたくなってしまった。