雨の滴と恋の雫とエトセトラ

 ヒロヤさんの店を出たあと、まだ外は夕方と呼ぶには早い時間だったが、終末を家族や友達と過ごした人たちはそろそろ帰ろうとする姿もちらほら見られ、私達はそういう人たちにまぎれながら駅までの通りを歩いていた。

 明彦は、拓登と瑛太に挟まれて歩きたいとリクエストする。

 自分が女の子になりきって、かっこいい二人の男を挟んだらみんなはどんな対応をするのか興味津々だった。

 瑛太はこういう事が好きそうにノリノリになって承諾し、その場の和を乱したくないと拓登も大人しくいう事を聞いていた。

 私と千佳は少し距離を取ってその三人の後ろを歩き、半ば呆れてみていた。

 人通りが多いところでは何人かは気になってチロチロと見ているようだったが、別にこれといってそんな激しいリアクションはなかった。

 それでも明彦はスキップするような弾んだ足取りで歩いているところを見ると、満足している様子だった。

「あのさ、明彦君ってもしかして性同一障害なの?」

 私は思い切って千佳に訊いてみた。

「うーん、ああいうの見たら皆が変に思うだろうけど、実はあれでいて明彦は別におかしいところのない正常な男の子なんだ。ほんとにただ趣味で女装するというのか、人を騙すことに面白みを感じてさ、明彦にとったらいたずらみたいなものなの」

「じゃあ、普通に女の子が好きなの?」

「うん、そう。私が、男みたいだから、結局は私のためにあんなことしてるのかもしれない」

「えっ、千佳のため? どういうこと?」

「明彦が女っぽいと、私が男っぽくなってもバランスが取れてるみたいで、ネタみたいに扱われるでしょ。明彦はわざとそうしてるのかもしれないのかなって思ってさ」

「ということは、千佳が男になりたいってことなの?」

「まあね、そういうことになるのかな。なんてね」

「えっ? 冗談なの?」

 千佳は笑っていた。

 何がなんだかわからない。

 千佳は私の目からみても、別に性同一障害で悩んでいるようにはみえなかった。

 寧ろボーイッシュな気質なんだろうくらいにしか思えない。

 ただ、まだ正直にはっきりといえなくてはぐらかしたのだろうか。

 千佳のことだから、時期が来たらまたずばっと正直に話してくれるのだろうが、今は虚ろな目で前を歩く三人を見ていた。

 暫く黙り込んでいたが、また千佳がふと話し出した。