雨の滴と恋の雫とエトセトラ

 私と言えば、時々瑛太の笑い声が耳について、それでカウンターを見てしまうのだが、男同士話が合うのか瑛太は拓登と楽しそうに話している。

 拓登もヒロヤさんの手前上、失礼な態度は見せられないと瑛太に無理に合わして話しているのかもしれない。

 女装した明彦は普段の自分とは違うキャラクターを作り出して、徹底的に女の子に扮しながら話しているようだった。

 違和感がないから、明彦の女装がそんなにおかしいことではないと自然に思えていた。

「こうなったら千佳は宝塚のように男装したらどう?」

 私がそういうと、千佳は笑っていた。

「そうだよな。そうすれば双子の姉弟のバランスが取れていいんだけど…… って、余計なお世話」

 軽く頭をコツかれた。

「でも、明彦君、ほんとに冗談抜きでかわいい」

「ああ、ほんと不公平だと思う。一層のこと変わってやりたいくらい。私もこんな風貌だから男だったらよかったのに」

 そうやってヒロヤさんと話す明彦の後姿をみていた。

 千佳は例え数分でも後に生まれてきた弟思いの優しい姉だった。

 だけどもし、ほんとにそうなっていたら、困るのは千佳なのに。

 本当は女の子の心を持ってヒロヤさんに恋してるくせにって突っ込みたかったけど、本人が近くにいる以上それは言えなかった。

 また瑛太の笑い声が聞こえてきた。

 こんなに美味しいデザートを食べられて、ここに連れて来てもらったことには感謝するが、邪魔されたことも忘れることはできない。

 最初から私と拓登を誘うつもりでいたとしても、だけどなぜあんなにタイミングよく私の家の前にいたのだろうか。

 それに私が拓登と出かけることも知っていたことも不思議だった。

 瑛太は私が思っている以上に情報を集めて、何かのスパイ工作でもしているんじゃないかと急に疑念が湧いた。