雨の滴と恋の雫とエトセトラ

「それじゃ、皆さん、只今から『艶』の特別デザートメニューの試食会を始めます。宜しくお願いします」

 ヒロヤさんが始まりの合図をすると、明彦が拍手をしだして、それにつられて残りも全員一緒になって拍手をする。

「皆さんの前にあるのは、見た目は同じように見えますが、二種類の『艶』特製のパンナコッタです。入れ物の淵に赤と青の色がついてますので、区別して下さい。一口サイズですが、それぞれのソースをかけて、それぞれどの組み合わせが一番合うか教えて下さい。それと改善すべき点なんかもあれば遠慮なく知らせてくれると嬉しいです。気がついたことは全て教えて下さい。一応頭に入れておいて欲しいのは、ここでしか食べられない味として出したいので、どの組み合わせが『艶』の 名物に相応しいかも考えて下さい。それではお願いします」

 なんだかとても真面目で、軽い気持ちでは食べられない圧迫を感じてしまった。

 目の前の白い艶やかな物体を見つめ、緊張してしまう。

 とんでもないことに出くわした気持ちの中、それでもデザートを食べられるのは嬉しかった。

 予め組み合わせが書き込まれた表の順番通りに、一つ手にとって、用意されたソースをかけてみた。

 皆も手を動かして目の前のデザートを静かに食べている。

 動きが止まっていたりするのは、真剣に味わっているからだろう。

 私も、目を瞑ってゆっくりと舌を転がすように味わっていた。

 その間、お口直しにとヒロヤさんは温かい紅茶をマグカップに入れて皆に振舞っている。

 みんなの真剣に食べる顔を心配そうに見ながら、ヒロヤさんも一言も言わずに見守っていた。

 一つ食べる度に、感じた事を紙に書いて、お茶で口の中を整えつつ次々と試食して行く。

 その間、皆一言も口を聞かなかったので、まるで試験会場にでもいるようだった。

 パンナコッタは赤と青では味が全く違った。

 それによって、ソースと絡んだ味わいも変わってくる。

 どれも美味しかったのだが、自分の好みを正直に紙に書いた。

 一口サイズでも、かなりの数があったので、すきっ腹だったのに結構空腹は満たされた。

 それにパンナコッタは大好きなので、こんなに色々な味が一度に楽しめるのは楽しかった。

 皆、奇麗に平らげ、空の入れ物が非常に目立った。