雨の滴と恋の雫とエトセトラ


「アキ、自分で真由に説明してやって」

「えっ、アキって明彦君?」

 名前を呼ばれると、スツールからぴょんと下りて、私の座ってるテーブルの前にやってきた。

「アキちゃんでーす」

 スカートを摘み上げて、可愛くお辞儀する。

「うそ、なんで女の子の格好なの?」

「へへへ、僕、女装が趣味なんだ。やっぱり双子だから千佳と似てるでしょ。それで小さい頃から何気に千佳のスカートとかはいてたら、すごく似合ってる自分に驚いてさ、それがエスカレートして、どこまで女になりきれて人を騙せるか拘ってたら、趣味になっちゃったの」

 私は唖然として明彦を見ていた。

 明彦の後ろで瑛太が笑っているところを見ると、すでに知っていたのだろうが、さすがに拓登は私と一緒に驚いている。

「びっくりだろ。でも家でもたまにこんなんでさ、私が男っぽいから、母はこういう女の子が欲しかったって満足してるの。変わった家族でしょ」

 変わっているけど、はっきりと「うん」とは言い難い。

 どうリアクションしていいか困ってると、明彦は益々かわい子ぶって女の子になりきる。

「真由ちゃんも見抜けなかったのは嬉しいな。益々自信ついちゃう」

「おっ、明彦、拓登も見抜けなかったみたいだぜ。もっと自信もて。お前はそんじょそこらの女の子よりもかわいいって」

 瑛太が褒めまくり、明彦は本気で女の子のように恥らって喜んでいる。

 カウンター越しで、手を忙しく動かしながらヒロヤさんも、ニコニコとしていた。

 皆が認めたら、私も認めるしかない。

 確かに明彦はかわいいと思えるくらい、それは女の子にしか見えなかった。

 明彦は再びカウンターのスツールに腰掛けると、瑛太とまた親しく話していた。

 その二人の後姿は、仲睦まじいカップルにしか見えなかった。

 明彦は多少化粧をしているとはいえ、ウィッグを被ってあそこまで女の子に見えるのなら、千佳が髪を伸ばしておしゃれをすれば、ものすごいかわいい女の子になるのではないかと思った。